UXデザインは組織づくりにコミットできる人が知るべき!株式会社ネコメシ・山本郁也氏インタビュー
「UX(ユーザーエクスペリエンス)デザイン」について、専門家にインタビューした記事です。答えてくれたのは、株式会社ネコメシのインフォメーションアーキテクト山本郁也氏です。誰がUXデザインを知っておくべきか、またどう学ぶべきかを伺いました。
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※山本郁也氏の肩書などは2013年11月18日時点の情報です
最近、UI/UXといった言葉を聞くことが増えていないでしょうか。IT関連の記事やセミナーなども増えているように感じます。
ただし、正しい内容を知っている方は少なく、間違えた解釈がされた記事も多く見受けられます。
そこで今回は、株式会社ネコメシの山本郁也氏に、UX(ユーザーエクスペリエンス)デザインとは、そしてどんな人が知っておくべきものなのかをインタビューしてみました。
なお、山本氏は、TechAcademyのはじめてのUX/UI講座の講師もつとめています。
お話を伺った方
山本郁也氏
株式会社ネコメシ
ディレクター / インフォメーションアーキテクト
株式会社ネットプライスドットコム
Beenos本部 デザインフェロー
楽天株式会社やフリーランスを経て、株式会社ビジネス・アーキテクツに入社。ソフトウェアデザインエンジニアとして、幅広い業務に従事し、2010年退職。
その後、株式会社ネコメシに合流し、平行して、株式会社ネットプライスドットコムのインキュベーション・プログラム「Beenos」へデザインフェローとして参画。 IA/UXデザイン、ユーザビリティエンジニアリングの領域から、Webサービス開発支援を行う。
特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構 正会員。特定非営利活動法人 ヒューマンインターフェース学会 正会員。IA Institute(US)会員。東京電機大学 建築・環境計画研究室 連携研究者。UX Tokyo所属。
UXはインターフェースデザインの延長ではない
――まずはUXデザインがどういうものか教えてください
厳密な定義としては、UXのスペシャリストが集まって作った「UX白書(User Experience White Paper)」というものがあるので、そこにまとまっています。これはhcdvalueという日本のコミュニティが翻訳しています。ただ、読んでいただければわかるのですが、一般の方にとっては難しいですね。
ここに書かれていることを簡単に言うと、そのサービスを「知った時」「使った時」「使い終わった時」「全体」を通してのユーザーの体験をデザインすることです。
大事なのは、体験そのものをデザインするということですね。製品をデザインするのではなく、ユーザーがどう思うのかをデザインすることが「ユーザーエクスペリエンスデザイン」です。
例えば、「知った時」は企画や広報の仕事だったり、「使った時」は機能要件考える人やUIデザイナーの仕事だったりするので、結局は組織全体がユーザーエクスペリエンスをデザインしようという方向を向かないとうまくいかないものです。
――よくUXデザインが「おもてなし」と勘違いされることも多い気がしますが、どこが違うのでしょうか?
UXデザインのひとつの形が「おもてなし」であるというイメージですね。「おもてなし」だけをしていればUXデザインの全てを満たしているわけではありません。
先ほども言ったように、UXデザインの領域はとても広いものです。おもてなしができるように組織を作ることもUXデザインで扱う範囲です。
――最近「UX」が話題になっていますが、どんな勘違いをされることが多いですか?
一番多い勘違いは、インターフェースデザインの延長だと思われることです。恐らく、「UI/UX」という言葉が広まったことが原因だと思います。
本来は組織のデザインなども含め、もっと上のレイヤーの話であるべきなのがUXデザインです。UXデザインの下に、UIもPRもエンジニアリングもあるというイメージですね。
あとは、UXが体験と訳されることが多いせいで、ライブ感やアクティブ感をイメージする人が多いようで、細かいインタラクションやリアルと連動したときだけに使われている気がします。
デザイナーの方が使う言葉というよりは、どちらかというと経営者やサービスオーナー、ブランドマネージャーなど企画から全体を統括できる人が使うべき言葉だと思います。
組織づくりにコミットできる人がUXデザインを考えるべき
――次に、UXデザインは誰が知っておくべきだと思いますか?
サービスを提供しているサービスオーナーや経営者、あるいはその人達にアドバイスをする投資家も含まれるかもしれないですね。
結局、組織のデザインが関係する以上、組織づくりにコミットできる人が良いUXを提供するためには必要になります。
それができない場合は、ある程度の決裁権を持っているような立場の人が知っておくべきだと思います。
――そうすると、スタートアップ企業の場合は経営者が知っておくべきなのでしょうか?
スタートアップだと、経営者がいてデザイナーやエンジニアがすぐ下にいてという形になるので、経営者がUXデザインの知識や理解を持つことが良いかと思います。
もしその間に誰か置くことができるのであればそれでもいいですが、ユーザーを中心に考えて、全体を統括できるようなディレクターのような人が担当しないとうまくいきません。
――一方で、大手企業の場合はいかがですか?
大手企業の場合はWebに限っていうと、ディレクターのポジションの方がいると思うので、その人達に必要な知識ではないでしょうか。いずれにしても、全体を統括できるような立場にある人が担当する領域だと思います。
UXデザインの手法の前にまずは姿勢が大事
――ではそんな人たちで、UXデザインを学びたいという人は何から始めればいいのでしょうか?
学ぶというよりも、まずは自分がユーザーではないということを自覚するべきだと思います。
本当はこのサイトやサービスを使う人は誰なのかを考えると、自分ではないことに気がつくと思います。自分の主観から離れることで、ユーザーは誰かを考えて動くことができます。
――UXデザインを学ぶというよりは意識を変えるということなのでしょうか?
そこに尽きます。
UXデザインの手法はいろいろとあるのですが、その意識が変わっていなかればいくら手法を学んでも上手く使うことはできないと思いますね。
――意識すべきことは「ユーザーは誰か」ということですか?
そうですね。
当たり前に思われるかもしれませんが、実は多くのサービスでユーザーは誰かが明確になっていないことを知った方がいいです。ちゃんとユーザーを絞り込むことをしなければいけません。
――ユーザーを絞るこむ時におすすめなのはペルソナなのでしょうか?
まあそうですね。ペルソナの目的はターゲットユーザーを明確にしたり、ユーザー調査のサンプリングが明確になったりすることです。主観から離れるという意味で、チーム内のみんながその人に向けてデザインという効果があります。
ただ、ペルソナ自体が妄想になってしまうというリスクもあります。本来はリサーチに基づいてペルソナを作るべきなのですが、コストもかかるので困難な場合も多いと思います。その場合は、身近な人で自社サービスのユーザーにぴったりな人をペルソナ化するというのもありだと思います。
あとは、決めたペルソナをちゃんとドキュメント化することも大事です。書き出して見ることで、チーム内で共有できるし、矛盾点に気がつくことがあるので、僕はドキュメント化すべきだと思っています。
――UXデザインを学ぶ上で前提として知っておくべきことはありますか?
UXを扱う専門家がちゃんといるということは知ってほしいですね。また、UXが、もう何年も前から研究されてきているような、専門領域だということも理解しておくべきだと思います。
そのため、本をちょっと読んだだけで理解できるようなものではないです。 先ほど言ったように、それを取り組む人の姿勢そのものが変わっていなければ本を読んでもきちんと頭に入ってこないものです。
参加した人の姿勢が変わるようなことを伝えたい
――最近、UXについてセミナーなどで話す機会も増えていると思うのですが、どんなことを伝えようとしていますか?
Web制作をする上での、心がけとか姿勢みたいなものを一番伝えようとしています。
だから、わかりやすい手法やおすすめの本も紹介しないようにしています。本や疑問点は人それぞれなので、その内容を全体に向けて話すことで思考停止されても困るのであえて話していません。
サービスに対する姿勢さえあれば、おのずと本や手法には後からたどり着くものだと思っています。
インタビューは以上です。
山本さんありがとうございました!
山本さんにはスタートアップ企業がUXデザインをどう事業戦略に組み込むかについてもインタビューしているので、合わせてご覧ください。