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日本政府の衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」とは【インタビュー】

経済産業省からの委託事業として衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」を開発・運用するさくらインターネット株式会社の竹林正豊さんと田中康平さんにインタビューしました。

テックアカデミーマガジンは受講者数No.1のプログラミングスクール「テックアカデミー」が運営。初心者向けにプロが解説した記事を公開中。現役エンジニアの方はこちらをご覧ください。 ※ アンケートモニター提供元:GMOリサーチ株式会社 調査期間:2021年8月12日~8月16日  調査対象:2020年8月以降にプログラミングスクールを受講した18~80歳の男女1,000名  調査手法:インターネット調査

経済産業省からの委託事業として衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」を開発・運用するさくらインターネット株式会社の竹林正豊さん(写真左)と田中康平さん(写真右)にインタビューしました。

Tellusとは何か、衛星データとは何か、衛星データの市場規模とTellusの特徴、そして学習方法と今後の展望まで伺いました。

お話を伺った人

竹林正豊氏

さくらインターネット株式会社 新規事業部所属。

Tellus xData ALLIANCE Project/PublicRelation Group Producer

2006年大阪芸術大学 芸術学部建築学科修了。慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科在学中。ファッション雑誌編集者、広告クリエイティブエイジェンシーを経て2017年さくらインターネット入社。2018年6月より現職。同社では、クリエイティブディレクション、企画の知見を活かし、広報や広告宣伝、外部イベント、トレーニング、データコンテスト、オウンドメディアなどのプロジェクトを統括。

田中康平氏

さくらインターネット株式会社 新規事業部所属。

Tellus xData ALLIANCE Project/Business Development Group

超小型衛星の開発や衛星搭載電源の研究/開発に従事した後、2019年2月より現職。同社では衛星開発の知見を活かした衛星データの利活用事例検討やビジネス開発を担当。また、宇宙ビジネスメディア「宙畑-sorabatake-」にて企画・編集を担当。

 

Tellusとは

――最初に、Tellusがどういうものかについてお話いただければと思います。

Tellusとは政府衛星データを利用した新たなビジネスマーケットプレイスを創出することを目的とした、日本発のオープン&フリーな衛星データプラットフォームです。

さくらインターネットが経済産業省から3年間の受託開発と運用を一任されているプロジェクトで、「宇宙産業ビジョン2030」という国の方針に紐づく形で衛星データのオープンデータ化を行っています。

 

――衛星データとはどのようなもので、どのようなことができるのでしょうか?

前提として、衛星データというと何か難しいもののように思われるのですが、特殊なデータとして見るのではなく、ビッグデータの1つと考えるとよいでしょう。

定期的に上空から地上の様子を撮影しているのが、衛星データです。

言い換えれば、上空から撮影している画像、と捉えると良いでしょう。

なので、プログラミングで画像処理できる人であれば、誰でも解析が可能です。

例えば、国立競技場を定期的に撮影すれば、建設の進捗状況を見ることができますし、空港を見れば、航空機が駐機場に何機いるか数えることもできます。

他の画像と少し異なる点があるとすれば、単なる画像ではあるものの、波長帯(バンド)ごとの画像がある、というところでしょうか。

詳細は省きますが、波長帯ごとの画像を見ることで、対象物の状態を捉えることができるようになります。

例えば、ある田んぼを定期的に撮影すれば、稲の育成状況を知ることができますし、地表面で温度が高いところを知ることもできます。

Tellusの場合、これらのデータは統合開発環境でPythonやR言語を駆使して解析できます。

そのため、ただ見るだけではなく、解析により田んぼの育成状況を知ったり、収穫時期を予測したりもできます。

credit:JAXA
キャプション:衛星で撮影した田んぼ(左)とその活性度を示す指標を解析で求めた結果(右)

 

――他のデータと比べて、エンジニアから見ると面白い点はありますか。

ある意味タイムマシンのようなもので、通常のデータでは測定しにくい変化を捉えられるのが面白いところだと思います。

IoTデバイスでずっと同じ点を観測し続ければ、高頻度に高精度なデータを取得できますが、「設置したとき」からの「設置した場所」のデータしか取得できません。

衛星データは面的に世界中を定期的に観測しているので、観測分解能は粗かったとしても蓄積された世界中のデータを確認できます。

点として観測している場合には、類推することが難しい問題も、面として観測していれば解決できることもあります。

そのため、本質的な変化をより観察しやすいと思います。

よく事例として取り上げられているのが森林破壊の問題についてです。

インドや中国は経済成長の影響から森林が凄く減っているイメージがありますが、実は森林の面積は増えているそうです。

点として、例えば木材の輸出量や林野火災で失われた面積についてのみ見ていたら分からなかったであろうことも、面として見ることで定量的に評価できるようになるのです。

衛星データを駆使して面で捉えたからこそ、森林が増えている事実に気付くことができた事例です。

他には、何かしらを解析するアプリケーションを作成した場合、日本のみならず、世界中をターゲットにできる点も面白いかと思います。

つまりは、日本の田んぼの育成状況を把握するアプリケーションを開発した場合、衛星データ自体は国内外問わず撮影されているため、海外の田んぼの育成状況を解析するソリューションとしてそのまま展開していくこともできる可能性があるのです。

そのため、開発したアプリケーションの潜在的な市場が広いということも面白い点と言えるでしょう。

 

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衛星データプラットフォーム市場におけるTellusの特徴

――衛星データ市場の現状を教えてください。

これまで宇宙開発は国主導が多かったのですが、最近では民間の衛星サービスが各国で始まっています。

2010年代には宇宙系のスタートアップ企業も多く出てきてたくさんの衛星が打ち上がりました。

今では1社で百何十基の衛星を運用している企業もあり、気軽に衛星が上がるようになっています。

それに伴い性能も高まっています。

具体的には、撮影する画像の質が上がり始めています。

高分解能の画像も撮れるようになったことで、例えば人影が見えたり、自動車のフロントガラスが撮影できたりします。

この動きの中で、衛星画像の利用促進施策が、アメリカやヨーロッパや中国などにおいて国主導で進んでいます。

衛星データビジネスは世界でも成功事例がまだ多くないため、私たちも手探りの中進んでいます。

 

――世界的に見て未開拓な分野なので日本でも市場を延ばす余地があるということでしょうか。

その期待値は上がっている状態です。

世界を見ると、AmazonやSpaceXなどの企業も次に来るのは宇宙ビジネスだと信じて投資をしています。

また、日本でも、2019年には、100億円規模の出資を受けた会社が3社あります。

一方で、その注目度と投資額に反して、日本では宇宙ベンチャー企業は少ない現状もあります。

日本には70社弱しかなく、そこに100社弱のVCから計500億円程が投資されています。

ビジネス活用を促進してさらに宇宙ベンチャー企業を増やすことで、これをバブルにせず継続的な成長ができるよう支援していくつもりです。

 

――様々な海外の衛星データが存在する中で、Tellusの独自性はどこでしょうか。

クラウド完結型であること、それから地上データを扱える点です。

今までの衛星データは、知識がないとどこのサーバに何のデータがあるのか分からない状態でした。

またデータサイズが大きく、衛星データを1枚ダウンロードするのに30分から1時間かかりました。

このような利用の煩雑さを解決すべく、Tellusは全てクラウド上で完結できるようにしています。

クラウド上にデータが揃っていて、クラウド上で解析できる環境を作っているのです。

これにより、強いネットワーク環境を持っていない方、高度なマシンスペックを持っていない人でも気軽に衛星データを解析できるようになります。

また、Tellus内で地上データを扱えるようにし、少しでも衛星データが活用しやすい状態も作ろうとしています。

その他の衛星データプラットフォームは衛星データだけを置いている場合が多いのですが、衛星データだけだと解析結果が正しいかどうか妥当性を検証しにくい点が課題です。

Tellusでは、点の地上データと面の衛星データを同じ場所に置いてあることで、活用の幅を広げていくことを試みています。

 

――なぜ地上データの掛け合わせを行うことになったのでしょうか。

ビジネス活用による民需の増加がTellusのゴールにあるためです。

従来通りの学術利用目的の政府案件だったら、色々な場所に散らばっている衛星データをまとめて使えるプラットフォームを作るフェーズで終わりでした。

ただ今回が経済産業省からの案件で、ゴールが多くの人から利用してもらい宇宙産業を発展させることだと考えると、衛星データだけでは得意不得意があるので工夫が必要と考えました。

例えば、衛星データには広範囲を撮れる長所はありますが、一方で分解能が粗い短所があります。

それを補完できる地上データがあると、衛星データをさらに幅広く使えるようになります。

逆も然りで、ある点の情報から、他の点の情報を類推するのに衛星データを利用できます。解析結果と地上データを比較しやすい環境であれば、その妥当性をすぐに検証できるのです。

地上データと衛星データを掛け合わせお互いの不得意を補い、ビジネス利用しやすくなることがゴールです。

 

Tellusの活用事例

――実際に、Tellusを活用した解析の事例はありますか。

オウンドメディアである宙畑を通して、おいしいみかん畑を探してみる、電動自転車が売れる場所の推測、テニスコートの素材、桜の開花時期の予測などを行いました。

他には、海釣りで魚が釣れそうな場所の予測も行いました。

魚のいる場所はある程度水温や潮目から推測でき、衛星データでそれらが分かるため、場所を割り当てて実際に釣りに行き、その結果、魚がたくさん釣れた事例もあります。

これらの様子となぜ釣れたかの考察をオウンドメディアの「宙畑-sorabatake-」で公開しています。

メディアで紹介した事例を元に、実践してみたり、アイデアを練ったりして、新たな事例を生み出していってほしいですね。

宙畑-sorabatake-『衛星データで漁場を探して、実際に釣りに行ってみようvol.1 ~データ確認編~』の画像

 

衛星データ全体に目を向けると、土砂崩れの検出、船の検出、海氷の検出などを行うアプリケーションが世の中には出始めていています。

オイルタンクの貯蔵量から石油の残量を推測して、石油価格を予測する使い方もされています。

石油タンクは落し蓋に似た形状になっていて、タンク中の石油残量に応じて蓋の位置が変わります。

そうすると、影の高さが変化するため、影の面積から石油の残量を推定できるのです。

様々な方が宇宙市場に入っていくことで、このような事例がどんどん出てくることを期待しています。

石油タンク監視
Credit : Ursa Space Systems

 

――Tellusを扱うにはプログラミングの学習は必須なのでしょうか。

必須ではないですし、プログラミングを習得していない人でも使いやすい状態を目指しています。

Tellusはインターフェースを2種類提供しており、プログラミングができる人向けの統合開発環境と、プログラミング不要でボタンを押しながら解析できる環境(GUI)があります。

GUIのインターフェースを用意している意図は、プログラミングができない人にも衛星データに興味を持っていただけたらと考えているためです。

そして、そのような人が衛星データへの興味を深め、より幅広い活用のためにプログラミングを学習し、ビジネスシーンで活用してくれることが理想です。

ただ、プログラミングができる方が、データを扱う上での選択肢は増えますので、より楽しめるとも思っています。そのための施策も合わせて提供していきたいと考えています。

 

Tellusの学習について

――Tellusを通じた人材育成についてお聞かせください。

私たちは衛星データを提供して終わりにするのではなく、ユーザー育成を積極的に行なっています。

衛星データとプログラミング共に未経験の人達も、衛星データを使ったビジネスをするステップまで引き上げていきたいと考えています。

ユーザーの中には、「Pythonは習得しており、興味もあるが衛星データで何ができるのか分からない」方が多いため、相談会や講習を行っています。

2018年度まではハンズオンのみで講習を提供していましたが、応募された方が1,000名以上と想定より非常に多く、受講できる方が限られてしまいました。

そこで、全国誰でも参加できるように2019年度から取り組み始めたのがeラーニングです。

また、これまでの学習ターゲットは「衛星データは知らなくても一定Pythonが触れる人」でした。

ただ、「Pythonが触れなくても衛星データに興味がある人」も非常に多く、そういった人々に学習の機会を提供すれば衛星データを用いてビジネス活用する人が増えるのではないかという仮説を立て、今回TechAcademyと共同でPythonの学習を行う初心者向けのコンテンツを作りました。

 

――eラーニングの施策は現状いかがでしょうか。

SNSを見ていても「良かった」と言ってくださる方が多いので、凄くいい施策だったと思います。

TechAcademyとの施策で言えば、学習者の熱量が高く、質問が想定より多い印象です。

初心者向けなので、メンターの存在が重要というのは元々の仮説としてありましたが、実証された形ですね。

また、最初はSNSで細々と宣伝しただけだったため、人数が集まらないことを懸念していましたが、フタを開けてみると200人の枠に400人を超えるエントリーがありました。

これにより、普段たちが接していない方々にもニーズがあったことに気がつけました。

 

――どのような方がエントリーされていますか。

今回は初心者向けと銘打ったこともあり、開発経験が1年未満だったりプログラミング未経験の方が大多数でした。

また申し込みの際に、400字以内で応募の動機を書く箇所がありましたが、熱意の強い方が多い印象でした。

別軸でいうと、中高生、新規事業をしていて最近流行り始めたから知りたい方、他には解決したい明確な課題を持って申し込まれた方が多い印象でした。

このような幅広い層の方々が利用することで、衛星データの利活用に関する多くの経験が蓄積し、利用事例に繋がることを期待しています。

今回はとてもバランスよく申し込んでいただけたので、今後はさらに幅広い層の方に申し込みしていただければいいなと思っています。

そして今後、受講された方々がTellusを使ってみた結果を公開していく流れができるとさらに嬉しいですね。

 

――Pythonを習得しているエンジニアがTellusを使うときには、具体的にどういう学習が必要になりますか。

APIの叩き方や、衛星画像特有の前処理があるので、その辺りの知識がある程度必要になります。

そのため今回の初心者向けTellus学習コースでも、画像処理の基礎を習得できる構成にしています。

普通のカメラはRGB全部まとめて出力されるのですが、衛星はRごと、Gごと、Bごと、と波長毎にスキャンして撮影するので、それぞれの波長を組み合わせながら処理していき、物理的に意味がある値として解析する、ということができるように学習するといいと思います。

また、単なる画像として扱い、画像解析した結果から何かを読み取るというのも良いでしょう。

近年の流行りとしては、物理的な意味を捉えながら解析するというよりは、機械学習等を用いて画像解析した結果から状態を推測する、という方が中心になっているかもしれません。

 

Tellusの今後の展望

――今後、利用者を増やす時に、Pythonやプログラミングが分かるエンジニアの方、ビジネスは分かるけれどもプログラミングは分からない方と大きく分けて2通りの方がいると思われますが、それぞれに動いてほしいイメージはありますか。

個人的な思いとしては、まずエンジニアの方々にはTellusを触ってもらいたいです。

膨大な観測データが日々蓄積されており、国内外問わず衛星データを用いたコンペティションが開催されている結果データセットも増えており、エンジニアの方々が触って面白いデータが揃ってきている状況だと思っています。

それらのデータを触った結果、事例が増え、その中のいくつかがビジネスの種になるといいなと考えています。

様々な事例をビジネスパーソンが見たときに、自身の事業と関連のあるものを見つける方もいるでしょうし、ビジネス化の筋道を立てられる技術を見つける方もいるかもしれません。

そのためにも、事例を蓄積していくことが重要だと思っています。

もちろん、エンジニアとビジネスパーソンの方が同一人物であること、もしくは同じチームにいることが理想的ではありますが。

ビジネスパーソンには、宇宙ビジネスに関心を持ち、ビジネス視点から事例創出をしていただけたら嬉しいですね。

そのために、オウンドメディアの「宙畑」では、エンジニア向け記事だけでなく、宇宙ビジネスのニュースも提供することでビジネスパーソンにも見ていただけるようにしています。

ただ、宇宙ビジネスにはまだこうやったら成功する、という王道がありません。

そのため、誰でもアイデア次第では大きく市場を取ることができる可能性があります。

アイデアを思いつくにはエンジニアもビジネスパーソンも関係ないので、自分はエンジニアだからここまでしか、とかビジネスパーソンだから技術は…とか考えず、アイデアを考えることが始めの一歩かもしれません。

 

――Tellus利用者にこれからどういう使い方をしてもらいたいでしょうか。

2020年度末までは基本的にデータもコンピューティングリソースも無料で貸出ししているので、まずは触ってみて欲しいと思っています。

そして、どんなことでもいいので、気になったことを少し見てみて欲しいです。

例えば、教科書で学んだこと、テレビで見たこと、日常的に気になっていることなどを、Tellusを利用して自分の目で本当にそうかな?と確かめて欲しいです。

より具体的に言えば、地球温暖化に疑問を持ち、本当に起きているのかを気温情報や環境情報を用いて解析してみたり、自分の町がどう年々変わっているのか見てみたり、どんなことでもいいので、それこそまずは遊んでみるような感覚でTellusを触ってみて欲しいと思っています。

気になったことを鵜呑みにするのではなく、自らデータで解析してみよう、という人が増えてくるといいですね。

そうすることで、遠い存在と思われがちな衛星データが身近になり、課題解決の1つの選択肢として衛星データがあるという考えを持つ人が増えていき、結果として衛星データの利活用が浸透していくといいなと思っています。

(インタビュー/編集:テックアカデミー 田中 翔)

 

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